健康長寿連続講座第2回「健康長寿はお口の衛生から」
そしゃくと栄養・健康長寿

大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座
有床義歯補綴学・高齢者歯科学分野 准教授 池邉一典


(レジメから)
歯と長寿との関係には、これまで多くのエビデンスが示されています。しかし、超高齢社会では、もはや単に生存期間の延伸が目標ではありません。健康寿命を伸ばし、要介護期間をいかに短くするかが喫緊の課題です。最近の調査より、介護が必要な状態になった原因は、脳血管障害(脳卒中)が最も多く、次いで認知症、高齢による衰弱、骨折・転倒、関節系疾患が主なものとされています。これらの疾患を予防する、あるいは機能障害を軽減することができれば、高齢社会への貢献は大きいと言えます。
我々の結果より、咬合力の低い人は、緑黄色野菜、魚介類の摂取が少なく、その結果、抗酸化ビタミン、食物繊維、n3系不飽和脂肪酸(EPA、DHA)などの摂取が少ないことが分かりました。これらの栄養素が生活習慣病の予防に効果があることは、よく知られています。歩行速度の低下は、脳卒中の既往、全身の筋力の低下、またタンパク質摂取低下のある人に多くみられました。また、そのような要因を加味した上でも、咬合力の低下は、歩行速度の低下と関連がみられました。さらに、生活機能が高く、自立した生活を送っている地域高齢者のみに限定し分析しても、咬合力は軽度認知機能低下と関係がありました。すなわち認知機能低下の初期段階においては、口腔機能が関連している可能性があります。
以上をまとめると、歯の健康を保ち、歯が抜けた場合は義歯を入れて、かむ力を維持することは、栄養摂取、運動機能、認知機能の低下を防ぎ、これまで言われてきた医学的な危険因子と同等かそれ以上に重要で、介護予防に貢献することが示唆されました。